この日、私はテストで33点をとった。
下から数えて何番目だろうとぐしゃりとテストを握りつぶしそうになったけれど、
先生の優しい視線を感じて顔をあげれば。

「今回の平均点は、さんあなたよ」

「え」

私が目を丸くしていると、雹が、自分が誉められたかのように、
興奮して鼻息荒げに、私に抱きついた。

「やりましたね。。見てください秋穂よりも上です」

「ちょ、ちょっとなぜ私の点数をばらす」

今回のテストは、難しかったから、平均点が下がったらしい。
こんなこともあるんだな。と嬉しく思っていれば、
幸せは一個ではなかった。
そのあとも、ポンと押された合格の判子。
「すごいぞ。。頑張ったな」

先生に言われて、初めて自分が実習に合格したことを知った。
嬉しくて涙があふれれば、先生は頭を撫でて、よくやったよくやったと、
一緒に涙を流していた。
ありがとう。先生。
補習の補習のそのまたに続くものに、いつも付き合ってくれて、
4年もかかっちゃったけど、私ようやく、普通になれたよ。

それから、私は、テストを持って、出来る限りのスピードで走る。
後ろから、文ちゃん先輩が、「、足から血が出ているぞ」と言ってたけど、
そんなこと気にしていたら、いつまで経っても、三木ヱ門に会えない。
だって、私、ずっと我慢してた。
完璧には、まだまだ先だけど、今の私は、ちょっとぐらい誇れるから。
頑張ったな。偉いぞって、一番好きな人から言われるのが、一番嬉しい。
ぎゅっと抱きしめられて、頭を撫でられるのが好き。
あの綺麗な瞳に私がうつれば、世界なんてどうでもいい。

三木ヱ門。三木ヱ門。
聞いて、あのね。私、頑張ったの。
テストね、平均点で、実習が合格したの。
凄くないけど、今までの私にとっては奇跡みたいなことなの。
だから、ちょっとは、私に惚れ直して。


息がはぁはぁあがって、茶色の髪を見つけて、名前を叫ぼうと思ったけど、
三木ヱ門の、みの字で止まってしまった。

「僕も好きだといったんだ」

一瞬、三木ヱ門が、何を言ったのか理解できなかった。
さっきまで見えなかったけれど、三木ヱ門の前には、泣いている綺麗な人。
ぽろぽろと大粒の涙を流して、嬉しいと何度も言う。
あの三木ヱ門は、誰か違う人の変装に違いない。
あんなこと三木ヱ門が言うわけない。絶対に違う。
でも、三木ヱ門が、私の方を振り返った。
・・・・・・私が、三木ヱ門を、間違えるはずない。
だって、誰よりなにより大好きな人。
誰かに盗られたくなくて、頑張ったんだ。
だから、あの三木ヱ門は、本物。

」と、私を呼ぶ文ちゃん先輩の声を、引き合いに私はそこから離れた。
そこにいたくなかった。これは夢だと信じたかった。

蒼い空下、屋根の上で、33点の紙飛行機を飛ばした。
真っ直ぐな軌道をえがき、紙飛行機は遠くに飛んでいった。
全部全部、幻覚だ。
私が、33点で、平均点なのも、実習を一発で合格なのもの、
夢にまでみていたから、こんなものを見てしまった。
そう、だから三木ヱ門が、私以外に好きだと言ったのも幻覚に違いない。

ちゃん」

いついたんだろう。いっさ先輩と文ちゃん先輩がいた。

「いっさ先輩。文ちゃん先輩。私、頭がおかしいみたい。
だって、幻覚なくせに、膝は痛いし、33点のテストもあって、
合格って書いてある紙も、ちゃんとあるの。
これは消えなくちゃいけないのに、全然消えない」



文ちゃん先輩に抱きしめられた。
違うこれじゃない。私が望んだのは、こんな胸板が固いのじゃない。

ちゃんは、すっごく頑張ったよ。偉い」

いっさ先輩が、髪を撫でてくれた。
違うこれじゃない。そんな優しく撫でてくれない。もっと激しく撫でてくる。
声だって、もっと声が高い。
違うが一杯あるの。
でも、本物は、もう私を抱きしめても、撫でても、
好きと言ってもくれないことに、気づいていて、
ああ、そっか。私三木ヱ門に、捨てられちゃったんだ。と
ぽろりと涙が出た。
その涙さえ、あの美しい天女には敵わない。
そんなこと最初から気づいていた。
三木ヱ門と私がつり合わないことも、いつか私じゃない誰かを好きになることも
そんなこと分かってた。

だから、ずっと、足掻いていたんだ。








2010・10・2