ただ、僕は、自分を見失うほどを目一杯愛したから、
それと、同等の愛が欲しかった。
誰のものでもない自分だけの愛を、感じたかった。
ナンバーワンの、オンリーワン。
それを感じれば、世界が戦争だらけでも、
攻撃してきた相手でさえも、愛を配れる心地するだろう。
だけど、愛は得難い。
誰の言葉が分からないけど、そのとおりだ。
だから、僕は、愛しの彼女から離れて、触れたいのも、話したいのも
我慢してる。
あと、もう一歩のところなのに、
彼女の周りに人が集まっただけで、彼女は、その先に行ってくれない。
なかなか次へ進めなくて、僕はギリリと奥歯をかみしめた。
「何がいけないんでしょうか?」
僕は、学園一、色に強く、
色男と称されている立花仙蔵先輩の協力を仰いだ。
立花先輩は、僕の話を聞いて、ふむと言うと、僕の目を覗き込んだ。
「田村。恋は駆け引きだ。あと一歩ではないか。
ここで、動いてしまったら、今までがお前の努力が、全て水の泡だぞ」
「そうですね」
「それにしても、はとてつもなく鈍いようだな。
そうだ。これは私がして、成功した話なのだがな。
昔、なかなか素直にならない彼女がいて、好きだと目は訴えるくせに、
口には出さないから、ついに焦れて、違う女と付き合ったのだよ」
「え、それって二股じゃあ」
「二股とは違う。それに、彼女は移り気で、いつも他のばかり見て、
私を見ないから、気が気でなかった。
愛してほしい男のちょっとしたイタズラだよ。
可愛いものではないか。しかも、結果も出たのだ。
それをしたら、彼女は、二三日で、私しか見なくなった」
「じゃぁ、僕それをして」
「ああ、待て、田村。これは最終手段だ。もしも、が何も変わらなかったら」
と、立花先輩は真剣な顔をして僕にくれた言葉は、僕の心を揺さぶった。
そんなことあるはずないじゃないですか。と言いたいけれど、
そもそも、こんなことをしているのは、僕が、彼女を疑っているからだ。
彼女は可愛い、素敵で、魅力的だ。
今だって、僕が傍にいないことで、何人かの男が寄ってきている。
彼女は自分の魅力に気づかないで、勘違いだと笑うけれど、
だとしたら、どうして善法寺先輩はがケガをしたとき、必ず傍にいるのか。
潮江先輩が、鍛錬が終われば、柔らかな顔で、頭を撫でるのか。
は彼等が、みんなにもそうしているのだと思っているかもだけど、
彼等はそんな人物ではない。
善法寺先輩は、むやみやたりに怪我してくる人に、しびれ薬を仕込んで、
包帯が無駄になるから、動かないでよね?と黒い笑みを浮かべる腹黒な人だし、
潮江先輩は、訓練が終われば、まだまだ鍛錬が足りないと言って、
走りこむぞと、ランランと目を輝かせて、
自分の体の限界に挑戦するドマゾな人だ。
僕は、手を握り締める。
そんな彼等だけど、本当は、とても魅力的だということを僕は知っている。
善法寺先輩は、くノ一からのチョコが一番多いし、
優しいし、顔だって悪くない。
自分よりも人の治療をしている姿は、格好いい。
潮江先輩は、責任感の強い人で、一度懐に入れてしまえば、
最後まで面倒みてくれる。
団蔵を叱りつけながらも、寝てしまった団蔵の文の帳簿を
何も言わずにやってくれている姿は、格好いい。
目の下の隈が取れて、眉間のシワを取れば、顔が整っているし、
文武両道な人だ。
そんな彼等が傍にいる。それがどれだけの恐怖かは、知らないだろう。
それに、。君は、結構、惚れっぽい。
僕がちょっと助けただけで、コロリと落ちてしまう素直な子だ。
彼等が、告白したときに、良さも気づいているが、
なんていうのか僕は不安でしょうがない。
立花先輩は、リスクが多いからやらないほうがいい。
と、忠告してくれた。だけど、僕の心は決まっていた。
三木!!と、僕を見つけて、笑顔で、駆けてくる
犬さながらの女・通称天女が僕に抱きついてきた。
「三木、大好き」
「ああ、僕もさ」
「え?」
天女は、驚いた顔で僕を見た。
「僕も好きだといったんだ。お前の耳は使えるのか?」
そういえば、天女は、ボロっと大きな目から大粒の涙を出して、
綺麗に泣かずに、くしゃくしゃの顔をして泣き始めた。
おい、どうかしたのか?と聞く前に。
「う、嬉しい。嬉しいよぉ」
と、しゃくり上げの中に聞こえた声に、キュンと胸が動いて、
それから、ものすごい罪悪感が込みあげた。
僕の告白に、何人かがざわついて、その中に見知った気配を感じて、
顔を上げれば、が僕を見ていた。
、傷ついて。嫌だって言って、お願い。君が僕を好きだって思い知らせてよ。
お願い。僕を、僕だけを好きでいて。
そう願ったけど、は、僕らを一瞥して、潮江先輩が呼んだ声の方に、
体を向き直した。
ざぁと、体を支えているものが、砂になった気がした。
どうやって今立っているのか。足が棒になっているのか。
僕は、砂になって、いなくなって、風になっているんじゃないか
なんて馬鹿なことを考えて、立花先輩の言葉が響いた。
「もし、がなにも変わらなかったら、はおまえのことを、好きではないのだ」
そうか。は、僕を。
腹の奥からせり出してくるものに、鼻が痛い。
「ねぇ、三木」
いつの間に、僕の腕をとっていた天女が言う。
「私と三木は運命の相手なんだから、なにがあっても、ずっと大好きだよ。
だから、他の子なんて見ないでよ」
それはくしくも、に言って欲しかった言葉で、
唇とツンと出して、不機嫌な天女に、の姿を重ねれば、
ああ、なんだ。。君はここにいた。
僕は、彼女をぎゅっと抱きしめた。
離さないとばかりに、強く。
狂ったかのように繰り返し好きだけを繰り返した。
僕が彼女を好きでしょうがないのも、
彼女が僕を好きな理由も、運命で片付く。
だから、彼女は僕の傍にいる。
誰の傍にもいかず、僕だけを好きで、僕だけを見ている。
赤い糸は強固で、切れることはない。
そう、君は、僕の好きな子。
名前は、。
今は、名前を変えて、天女って言う。
姿も変えているけど、声も変わったけど、性格も違うけど、
そんなのどうでもいい。君が僕だけを好きでいるなら。
青い空には、一枚の紙飛行機が飛んでいた。
2010・9・30