留さんと小平太が喧嘩をした。
早く、来て下さいと用具委員の3年に連れられていけば、
現場は酷いものだった。わんわん泣いている低学年に、
土埃と、血の匂いが香り、
殺気を帯びた目や、剣呑な雰囲気は、喧嘩というよりも、
殺し合いに似ていて、
僕が止めに入ることはできなくて、結局、優秀い組の二人が喧嘩を収めた。
収めたと言っても、小平太を眠らすことに成功したといえよう。
二人共怪我がひどかったけれど、
武闘派の留さん、暴君の小平太。
結果は、引き分けなんてことはなく、小平太のほうに軍配が上がっていて、
留さんは悔しそうに顔を歪めていた。

「なんでこんなこと」

僕の問いに、
「急に、七松先輩が襲ったんです」

と用具委員の後輩が答えて、仙蔵と文次郎が顔を見合わせ、
文次郎が、仙蔵に聞く。

か?」

「留三郎に小平太、それしかあるまい」

二人の会話に僕は包帯を巻く手を止めずに聞いた。

「なんで、小平太はこんなことを」

治療は、傷が深い留さんからしているけれど、
小平太の方も、見過ごせない怪我がある。
手を止めることなんて、出来ない。
本当なら、治療なんてしたくないけれど、僕は保健委員。
怪我しているものを治療するのが、学園での僕の役目だ。
僕の疑問に、仙蔵が答えた。

「小平太は、ようやく気づいたのだ。が留三郎を選んだことを」

「おかしい感じがしたが、まさか食満を殺そうとするとは」

文次郎の言葉に、仲間じゃないか、そんなことは。と
言えば、甘いとばかりに、仙蔵が言葉を返す。

「比喩ではない伊作。お前は分かっているだろう傷の深さが、
喧嘩のようなものではないことを。これは殺し合いだ」

険しい顔をした二人が、大の字に転がっている小平太をみやる。

「やばいな。これは」

「小平太が、を捕まえたら、もう離さないだろう。
だが、は留三郎を選んだ。
殺しはしないが、よくて監禁。悪くて、手足を潰すか」

怖いことを言っている仙蔵に、くぐもった声が響く。

「っそんなことさせるかよ」

「留さん、しゃべっちゃダメ」

肋骨が折れてるんだよ?安静にして、と僕がぐっと包帯をしめれば、
気を失ったようで、静かになった。
僕は、軽い応急処置を終わらせて、二人を保健室に運んだ。
小平太の方には、睡眠効果がある香を炊いているから、まだ起きないだろう。
見知った保健室で、布団に横たわっている留さんを見ながら
僕は、頭を整理させた。

小平太は狂ってしまった。

結果は、たった一文で、そうさせたのが、僕かもしれないということ。
叫べばいいなんて、思い知らせればいいと思っていたけれど、
小平太は、本当の本当にを愛していた。
それこそ、狂うほどに。
僕が知らない次元の愛に、僕は戸惑った。
だから、理解したと言っても、僕は、6年間一緒にいた友人が
狂ったことを真に理解していなかった。
手足を潰すとか、監禁とか、夢のような感じていた。
だけど、今、現実、目の前で、留さんの頭を蹴り続け、
それを必死に止めるを、偽物だと言って息の根を止めようとしている
小平太を見て、目が覚めた。
それから、僕は

「伊作。嘘は関心しないなぁ。はね、まったく泣かないんだ。
たかだが、私に妬かせるための駒が死んだくらいじゃ泣きはしないよ。
だから、これは、じゃない」


その台詞を吐いた小平太に怒りを感じた。
体が、怒りでぐらついて、熱くてしょうがない。

「小平太。君は本当に暴君だね」

「何?」

「幸せを壊す暴君。誰からも愛されないだろうね。
君は、好きだ。愛している。と言いながら、本当のを見つけないで、
自分の理想を押し付ける。それから外れれば偽物だなんて、
なんて酷い愛し方だろう。だから、君は壊すことしか出来ない。
君は、二度と愛されはしない」

「黙れ」

「いいや、黙らないさ。君はさ、が泣かないだなんてそんな馬鹿なこと
本当に思ってるの?赤ん坊ですら泣くのに馬鹿じゃないの。
何があっても悲しいとか、痛いとかか感じないとでも思っているの?」

「黙れ、黙れ」

そう言って、叫ぶと小平太は僕に突っ込んでくる。
馬鹿なことしたなって思ってるけど、どこかすっきりしてる。
勝負に負けて、試合に勝ったってこのことだね。
でも、僕が怪我したら、誰が治療するんだろう?
その前に、生きてればいいなぁなんてのほほんと考えている僕は、
最後にを、見た。

・・・・・・ああ、君はどこまで馬鹿なんだろうね。
ずっと君は、君を隠してきた、その中身は綺麗な朱色。
隠すことなんかないのに、って言えばそれじゃぁ私じゃないでしょう?
なんて、隠してもバレバレだよ。
君はさ、怖かったんだろう。
ずっと誰かに本当の自分を知られて否定されるのがさ、
嘘で塗り固めて、素直になれなくて・・・・・・
目の前まで迫ってくる男に視線を戻す。
小平太。
彼女はさ、よく泣いて、その分よく笑うんだ。
君は、知らないだろう。君は一生知ることはないさ。
ははは、ざまぁ。



「おすわり」


その声は、小さいけれど、とても大きく響いた。






2010・09・14