どうしてこうなったんだろう。
私の横に、私の腕をとって離れない二人がいる。
観客が三人。
出来れば、両方共引きとってくれないか?と思うものの、
両者睨み合いが続く。
はじめは、藤内が、
。休日だから、遊びに行こうと部屋に来たことから始まった。
暇だったし、友達が帰って来なくて藤内が寂しいのなら、
付き合ってもいいと腰をあげ、支度をしてから、藤内とともに
外への扉に向かっている時だった。
運の悪く、孫兵に会った。
藤内の後ろには、紐をつけられた男二人と、
あちゃという顔をしたそれを持っている男一人。
孫兵の友達で、藤内の友達だ。
孫兵の持っているものからして、毒コレクションの自慢だろうか。
この頃は、天女さまとやらがきて、休日には来る頻度が減ったものの、
孫兵は三週に一回は私のもとへ来て自慢していた。
藤内と私を見るやいなや、孫兵は一回ニコっと笑い、
「なにしてるんだ?」
と、低音で聞いてきた。
私が何か言う前に藤内が口を開く。
「と、評判の甘味屋へ行くんだ」
藤内が、ぎゅっと手を握ってきた。
そういえば、彼らは藤内を一人にさせてしまった友人だ。
心細いのかもしれないと手を握り返したら、
安心したような嬉しそうな笑みで微笑むものだから、
藤内の方に顔を向けようとしたら
孫兵から凄い冷気を感じ、向くのをやめた。
「は、毎週、この時間、僕と話するんだけど?」
それは知らなかった。いつのまにか、時間まで決められていたとは。
「でも、孫兵は忙しいから、先週はいなかったみたいだね。
僕はと、一緒に復習してたし、今日もいいんじゃないの?」
ピシリと、空気が割れるような音が聞こえた。
それと、藤内から「もう来んなよ」の言葉も聞こえた気がする。
一瞬、藤内?と冷や汗をかいたが、
藤内はいつもどおりの藤内で、
「急がなくちゃ。お店しまってしまう。急ごうか」
と、手をつないだまま走る。
そのまま、藤内についていこうとしたら、
ぎゅっと、反対側の手を孫兵に取られた。
「僕の約束の方が最初だろう?」
「約束を破ったのは孫兵だから、無効だよ。無効。その手離してよ」
「嫌だ。第一、藤内。は僕のだぞ!勝手に手出しするな」
「なにそれ、なんで自分のものとか思ってるの?
は、ペットじゃない。人間だし、女の子だ」
「はぁ?だからなに?は僕のなのは絶対。
急に出てきて、藤内が勝手に出てくるほうが分からない。
なんかの授業とかで、の毒とかが欲しいんだろう?
だったら、僕からに頼んでやるから、さっさと離れろ」
バチバチと私の間に電気が走る。
いつ私は孫兵のものになったのか疑問だし、
毒が欲しいなら、頼まなくても今ここであげれるんだけれど、
と口にしようとしたら。
「しゅらばん、ばんば〜ババババン♪」
「歌うな。左門」
ごんと、左門と呼ばれた少年の頭が殴られた。
観客の和やかな感じに、つい気を取られた。
いや、わけわからない内容で、ヒートアップする横からの
現実逃避というのが正解だけれど。
「勝手なこと言わないでよ。孫兵も天女さまのほうがいいんだろう?
はいらないんだろう?
だったら、頂戴よ。僕はしかいらない」
「なんでそこに日羽子さんが出てくるんだ。と日羽子さんは別じゃないか」
孫兵がそういえば、藤内からの力が増した。
藤内は作法委員だと聞いたが、体育委員でもやっていける気がする。
現に、私の腕から変な音が聞こえた。
「そんなんだから、孫兵には渡せない」
「なにわけわからないことを」
藤内の睨みに、孫兵が心底分からないという顔をしている。
これはしょうがないことだと思う。
孫兵にとって私は人ではない。
藤内にとって私は人である。その差。
ペットの感情と、人への感情との差。
どちらがいいのと言われたら、困る。
私には、人の感情もペットの感情も分かり得ない。
「も黙ってないで言ってよ」
藤内が訴えるような目をしたので、ふーと息を吐いた。
「・・・・・とりあえず、下の服が見えてしまうから、
腕を引っ張るのをやめてほしい」
毒をもっている私は普通の服の下に黒い服を着ている。
理由は素手で触ると危険だと思われているので、
危険性をちょっと和らげるためである。
肩付近まである長い手袋と、タンクトップに、
ぴっちりな短パンに、ニーハイの靴下。ところどころ肌が見えるのは、
きっちりつめると、むれるというのが理由だ。
見えていないところまで気を配るのは面倒だ。
「あ、ごめん」
そういって手を離したのは藤内で。
「よし、じゃぁ、行こうか。」
そういって、得意げな顔をしたのは孫兵だった。
「いや、孫兵のそういう狡猾なところは嫌いではないけれど、
甘味屋行きたいと」
孫兵は、信じられないものを見ているような顔をした。
「・・・・・・なにそれ、僕より藤内を優先させるの?」
孫兵は根本人の話を聞いていない。
私は同じ言葉を繰り返した。
「いや、甘味屋いきたい」
「じゃぁ、僕もいけばいいんでしょう!!」
「どうしてそうなった!!」
紐を持っている少年が叫んだ。
私だけが思っているわけじゃなくてほっとしたのも
つかの間、藤内はちゃっかり私の腕を掴み直している。
「いいよ。孫兵人ごみ苦手でしょう?
僕とがいくから、さっさと部屋に帰ればいいよ」
「だって嫌いだろう。そうだ。藤内が買ってくればいいんじゃないか?
その間に僕とが話してるから、これにて一件落着じゃないか」
「孫兵。そろそろ僕もキレるよ」
「最初っからキレてないか?」
「お前も黙っとけ、三之助」
またぎゃぁぎゃぁ騒ぎ始めた藤内と孫兵に、
いい加減疲れを感じてきた私は、名案を思いついた。
にゅっと日頃の鍛錬により習得した縄抜けの応用を使い、
二人の手から腕を離させると。
「ああ、じゃぁこうしよう。私が買ってくるから、その間、話をつけていてくれ。
なにがいい?」
と、紐をもった少年に聞くと、
自分が聞かれるとは思っていなかったようで驚きながらも答えた。
「へ、俺?俺は、抹茶団子が好きです」
「僕は、みたらしで」
「俺は、あんこ」
紐にくくられている少年たちは図太いらしい。
蛇女のものなんて食べれるかというのを期待したのだけれど、
別に構わないらしい。
まぁ、そんなことどうでもいいかと、ふらりと動き始めれば、
後ろから藤内の声が響いた。
「何ナチュラルに、お前らも頼んでいるんだ。って、待って、僕も行く」
「待て、藤内。お前だけ行かせるか」
そのうしろからは孫兵で。
「面白そうだ。ついていこう」
「おー」
「待って、そっちは違う方向だ。こっちだこっち!!」
そして、観客たちもついてきた。
ああ、休日ぐらいは、ゆっくりしたいのに、本当に面倒なことだな
と思いながらも、まぁ、一日ぐらいこんな日があってもいいかと
思い直した。
その考えが間違っていたと、すぐに理解することになるのだけれど。
2011・4・3