きっと、おかしいのは僕の方なんだろう。


ある日、天から降ってきた「天女さま」と言われた女性。
日羽子さんは、とても可愛らしい容姿をしていて、
その容姿を裏切るほど元気で、この世界と違い世界からやってきました!!
なんて、バカみたいなことを言う人ではあるけれど、
6年の潮江先輩が彼女を疑っていたときに、拳で戦って自分を認めさせた人物だから、
結構強いし、事務の仕事は小松田さんを解雇して、
正式に雇ったほうがいいんじゃないかっていうほど出来る。
少々抜けていて、男勝りでさっぱりとして、素直で、冗談も伝わる柔らかい頭も持っていて、
好ましいと思える性格をしている人だ。
みんな好きになった。あの人嫌いの孫兵ですら、近づくのだ。
だけど、僕は違った。委員会に来るたびに、3年のほうに来るたびに体が固まる。
なんでかは、分かっている。自分の頭の硬さが原因だ。
僕は、運が悪いことに彼女が天から降ってくる姿を見てしまった。
その姿は、僕の予測を超えた、予習しても復習しても現れることのない落書きみたいな存在。
僕は彼女は人だと認めることができなかった。
違い世界という言葉も、なお彼女への生理的嫌悪が深まるだけだ。
そんなわけなので、恋心を抱く友人の姿に、おいおい頭は大丈夫か?と言いたくなるのだ。
それを言えば、嫌われることは必須なので、僕は彼らと距離をとっていたのだ。
そんなことを一週間続けていれば、
初めて知ったのだけど、一人でいることが短かったせいか、寂しいなんて感じてきた。
じわりと知らずに浮かぶものは、一週間も離れていれば、彼らがどうしたの?と心配して、
僕の気持ちも言えるいい機会を貰えるなんて、楽観的思考も入っていて、
僕は、たかだが、何週間もの人間に3年間の絆をボロボロにされていた。
彼女が憎いと感じていたけれど、何をしていいのか分からなくて、
そんなときに、見えたものは。

、好きだぞ」

「はい、はい」

なにも変わりなくあり続けた二人の姿だった。
僕にとって、というくのたまは、理解不能のギリギリラインに立っている人物だった。
彼女は、体に何百種類の毒を持っていて、それを使い人を殺したりするので、
くのたまの後輩同級先輩以外にも、忍たまの後輩同級先輩。
つまり、この学園の全ての人が彼女を怖がっている。
触れば、死ぬかもしれない人物を愛せというほうが難しい。
まぁ、孫兵は、毒がある生き物が好きで、何匹も飼っているくらいなので、
彼女のほうが人よりも好きだった。
彼女は誰よりも孤独だったはずだが、孫兵という人物のおかげで、孤独でなくなった。
それは、僕が孤独を感じている今でさえ崩れずにあり続けた。

どこか、僕は壊れる寸前だったのではないだろうか。
誰もが好きになる人を好きになれない疎外感の中、孤独の中。
徐々に闇にのまれていたんだ。

だから、恐ろしいはずの人物に、挑発的なことを言えた。
言った後に、何も言わずに無言で去っていく彼女に、生きていることの安堵と、
そして、消化不良な気持ちだけ残った。


、好きだ」

「はい、はい」

聞こえた声は、毎度同じこと。昨日ことで決まりが悪くて、まわれ右をしようとしたけれど、

「でな、日羽子さんが」

え。

「そのとき、日羽子さんったら」

「だから、日羽子さんを」

「日羽子さんって」

聞こえた単語にくらりと目眩がした。
じゃぁ、また明日と言って帰ってく孫兵に、大きなため息。
どことなく悲しげな横顔を見えて、そのまま帰るはずの体は、彼女のもとへ言っていた。
彼女の、光のささない黒い眼が僕をだるそうにとらえる。
二人とも何も話さなかった。
さわっと風の流れて、誰かの声が遠くで響いた。

「ごめん」

口から出た言葉は、謝罪の言葉だった。

「ごめんなさい」

変わらないなんて言って、本当は変わってしまって、
とっくに孤独の中にいたこと彼女への謝罪。
僕だけが、どんなことをしても、好きになれなくての謝罪。
本当のことを言って許してくれるか怖くて、友人を信じ切れていない謝罪。
色々な気持ちを込めたごめんなさいに、彼女は、何も言わずに僕の肩を叩いた。
彼女は、人を怖がらせないために、黒い手袋をしていた。
だから、安全だなんて誰も思っていないから、
彼女に触れられることは恐怖に違いないはずなのに、僕は息をすることが、ようやく出来た。
優しくも、強くもない、丁度いい触れるという行為が、
全て許された気がして、僕はそのまま声を殺さずに泣いた。
彼女は、僕が泣いている間、何も言わず僕の横にいてくれた。
涙が枯れて、すっきりしたころ、僕は立ち上がり彼女の顔を正面から見た。
前は、自分の気持ちがめちゃくちゃだったから、彼女の顔をちゃんと見たのは初めてだった。
ずっと恐ろしい蛇女と呼ばれる彼女は、蛇のようにつりあがった目をしているわけでも、
肌が鱗でもあるわけもなく、そんなはずはないのだけれど、噂の先入観は馬鹿に出来ない。
むしろ、美人に入る部類の少女に、僕は手を伸ばした。

「孫兵の代わりにはなれないけど、僕と一緒にいよう・・・・・

初めて呼んだ名前は、なんだかむず痒い。
だけど、毎日言えばきっと慣れる。何事も訓練あるのみだ。
伸ばした手をじっと見つめたまま、孤独という檻で自分を守っている彼女に、
大丈夫だ。とどうにか伝えたくて、そのまま無理やり手を握った。
彼女の手は、布の感触がした。今度は、じかに触って見せる。
僕だって、の手を握ることはできるから。










2010・2・26