ある日。そのある一日で、変わってしまった。
しかし、一番変わったのは、実のところ変えた本人だったりするのではないか。
たった一日で全てを強制的に捨てらされ、周りの変化を受け止めるなんて、
並大抵ではない。くのいちでは、彼女になりたいと願っている人もいるようだが、
大勢の人から愛さられる特典があったとしても、私はごめんだ。


、好きだ」

この台詞を何度言われただろうか。私は、はい、はい。と毎度の言葉を聞き流した。
しゅるっとその台詞を吐いた男の首につけた蛇が私を見つめる。
なんだ、ジュンコ。嫉妬なんてそんなもの、意味がないぞ。

「本当に、は素晴らしいな、毒を持っている人なんて、
こんなに魅力的なものはない!!」

べたりと、音が付きそうなほど私の体にしがみつく男は、3年い組伊賀崎 孫兵という。
彼は、ジュンコを筆頭に、毒を持つ種類のペットを大量に所持しており、愛している。
大げさでなく、愛しているのだ。
そんな彼は彼曰くとてつもなく価値を持つ哺乳類でしゃべれるペット見つけた。
それが、私だ。
彼は飽くことなく愛を語っている。彼のペットでお気にいりのジュンコのように、
愛しているよ。好きだよ。から始まり、それから他愛もない授業の話まで、私に聞かせる。
私は、彼らのペットのように、何事も言うこともなく、うんうんと頷けばいいのだ。
最後に、愛してるよ。じゃぁ、また明日。そう言って帰っていく。
4年生に、自分の自慢話が好きな先輩がいるらしいけれど、
孫兵とどちらがましなのか、教えてほしい。
と、今日もウンザリしながら、天井を仰ぎ見る。
ああ、今日も一日がようやく終わった。


いくら人が集まっている場所でも、私が一歩近づいて私のことを視野に入れた瞬間
人は、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
嫌われているわけではない、恐れられているのだ。
これが私の学園での立ち位置なのだが、そんな私に臆さず
「おはよう。今日も綺麗だな。
そう言ってくる馬鹿がいた。ここだ、ここと食堂の自分の横に席に座らせる。
友人の少々嫌そうな顔など知らんぷり、周りの迷惑など省みない男だ。

。今日はな」

「はい、はい、はい」

昨日のは昨日の、今日のは今日ので話しだせる彼はとてもおしゃべりなのだろう。
私は、とても自分の世界以外のことに疎いので、
実は彼が人嫌いであまりしゃべらない男だということを、
誰かが教えてくれるまで気づかなかったりする。
!!と名前を呼ばれてから始まる他愛のない会話。
3年も続けば、習慣となってしまって、だからだろう。
彼は、ある日落ちてきた人通称「女神さま」
・・・・・・嫌、間違った「天女さま」が、来ても変わらずに
私のもとへ来て、いつも通り話して帰っていく。

そんな日常を誰が怒ろうか。誰が妬もうか。
誰もそんなことをするわけがないと思っていたから、彼の言葉に驚いた。
目を見開いている私に、手を組み、こちらを睨み、顔をゆがめる。
私と彼の接点は、孫兵でしかない。その一点を、かすめるほどの仲。
名前は知ってる、どういう人物が孫兵が語っていくので、やや知ってる、
だけど、じかに本人に確認したことがない。
彼・浦風 藤内は友人の友人というところだろう。

「おまえは、いいよな。お前が、毒を持つ限り孫兵は、変わらないんだから」

と、酷い言い草だ。
だけれど、なんなら、変わろうか?と言えるほどのものだ。
その言葉を言おうとすれば、耳に聞こえた大きな声。
天女さまと誰かの笑い声。あの声は、3年生のものだ。
その声は、目の前の彼にも聞こえたようで、もっと顔をゆがめた。

なるほど、なるほど、そういうことか。ピーンときた。
それなら、なおさら、私は何も言わない方がいい。
背を向けたら、後ろから、なじるような視線を受けたが、
彼は私に対して怒っているのではないので、私はその場を立ち去った。

部屋に帰ろうとすれば、聞こえた自分の名前。
お前のせいで初めて妬まれたと、意味なくじとりと睨んだが、
彼にはそんなことおかまいなしに、あのな。と話を続けていく。
今日はまだ終わらないようだ。
ああ、あくびをかみ殺さなければ、それにしても、いいよな。なんて、
毒があろうとなかろうと、私に人の愛など、孫兵の愛など重すぎるのだ。









2010・2・26