ばかなコ 4
好きか嫌いしかなかった感情に、
真ん中が生まれたのはいつのことだっただろう。
「あーあ、こんな退屈な任務よく出来るわね。馬鹿になりたいわ」
疲れた同級生の様子に私は悲しみ覚える。
早く滝と喜八に会いたかった。
私は二人が大好きだった。
久々知先輩も優しいくて、のんびりとした雰囲気が楽しかったけど、
彼以上に二人が好きだった。
久々知先輩に恋をしろと私の中にいるアレに言われたけれど、
恋がなにかすら分からない私は、賢くなりたいために
二人に会う時間を減らして久々知先輩の側にいた。
賢くなれば、賢い二人が理解できる。
課題で任務で実習で煩わせてばかりじゃなくなる。
このごろは徐々にそれが叶って、
でも、まだ感情のすべてが読み取れない。
そう学園が休みの時言うと、私の横にいるヨボヨボな人が言う。
いくら曲がりくねった道でも進めば、進もうと思えば、
つきたい場所にいけると。
私は彼が好きだった。
彼の名前を私は覚えれなかったが、
その言葉は何千も何万も言われたので覚えている。
今なら彼の名前も覚えれたのだけれど、
彼は永遠を旅する男になったので帰ってこない。
私はいつも学園が休みのときは一人、
そこらへんを旅している。
本当の家族はどこにいるのか分からないから
多分二度と会えないと思うけれど、
アレを宿している私は、人に恵まれて、
何人もの賢者と呼ばれる人たちが私の横に寄り添い、
馬鹿な私に助言をした。
危なっかしい道は通る前に諭され、時にぶつかり時に回避した。
そうして私は13年生きてこれた。
だけど、問題の答えを補助してくれる人が、教えてくれないので、
私には答えを導けないまま棒のように突っ立ている。
私が学園の任務を受けていて、帰ってくると、
滝と喜八が向かいいれてくれた。
それはいつものことなのだけれど、彼らは徐々に私から離れていった。
私が賢くなれば、課題を終わらせれば、補習なんてなければ
もっと一緒にいれるし、遊べると思っていたけど、
二人からすれば、そうじゃなかったらしく、
もう独り立ち出来ると。
意味が分からない私が尋ねたけれど、
彼らは私に背を向けて、違う女の人のもとへ駆けていった。
私は悲しかった。
私がようやく二人の名前をちゃんと覚えれて、
平 滝夜叉丸と、綾部 喜八郎と叫んだけれど、
馬鹿な私が良かった二人は振り返りもしなかった。
どうしてなのか、答えを私のなかのアレに求めれば、
あれが愛なのだと教えられた。
水曜日。と喋れる日だ。
は一度も時間に遅れたことがなかったのに、
どうしたものか、
任務はすんだって言ってたから、なにか病気にかかっているのかも。
それはいけない。治療しにいこうと立ち上がると、
木陰のなかにピンクの色が隠れていた。
は葉っぱに顔を隠されて見えなかったので、
それをのけると、いつも嬉しそうな顔が無表情だ。
「こんにちは」
「なんだ、今日は随分遅かったな」
「久々知先輩も来ないと思ったんです」
「も?」
「滝も喜八も私のもとにもう来ません」
彼女が悲しくて、無表情になってしまう相手に少々妬けたけれど、
二人がいない、二人が来ない事実にには悪いが、
喜んでしまった。
にやける顔を抑えて、考えないように違う話題を振る。
このごろのは、最初の愚鈍としかいいようのない態度から
少々鋭くなったようで、
気持ちの変化を読み取れるようになってきている。
「・・・・・・・敬語」
「はい」
「敬語ちゃんと言えるようになったんだな。頑張ったな」
頭を撫でると、は、目を見開いて、無表情じゃなくて、
悲しような嬉しような複雑な顔に眉毛と口を歪めた。
「はい、私頑張りました。すごく頑張ったんです。
二人と一緒にいたかったから頑張ったのに、
二人は愛を手にいれて、その代わり私がいらなくなったんです」
の言葉をつないで、事の真相にピンときた。
「愛・・・ああ、苑子さんのことか」
「苑子さん?」
が顔をあげたので撫でるのをやめる。
の大きな目がぱちくりと俺を見上げてきた。
可愛いな。と、抱きしめたくなった俺をどうにか理性で抑えこみ、
俺はに事の真相を告げた。
「がいない間に降りてきた天女さまだって噂の
ただの事務員さんが苑子さん。
でも彼女は魅了の術を持っているらしくて、
俺の友達もみんな骨抜きになってしまった」
「骨が抜かれる?それは、忍びなんでは?」
「うん。俺もくの一だと思ったんだけど、
先生が調べてもシロだったらしくて、
でも怪しいから監視してるというのが建前、
ただ単に気に入ったからの保護かな・・・学園長の思いつきは
時々理解出来ない・・・・・・なに?」
ペタペタと体を触られて反応してしまう。
思春期の男の子をなめないでもらいたい。
女の子の柔らかい手で体を触られたら、ドキドキしてしまうし、
いけない気持ちになってしまう。
しかも、気に入っているコならなおさらだろう。
「骨ある」
当たり前なことを言われたが、俺の頭の中には
般若心経を唱え理性総動員だったので、
俺はの勘違いに気づかず話を進めた。
「俺は彼女になにも思ってないから、そんなことより。
敬語を頑張ったところ悪いが、俺は素のがいいので、
敬語なしと、兵助先輩って呼んで」
理性をフル動員したけれど、ちょっと溢れた自分のものにしたい
独占欲がでてきて。
「・・・・・・いいならいい・・・よ?」
そういって頭をかしげて不思議そうな顔をしている
の姿に、今が大チャンス到来を感じた。
2011・11・27