ばかなコ 3





火薬委員の仕事中、見慣れた顔が手を振っていた。
ピンクの服をきてところどころ汚れているどころか、
頬にまで泥が付いている。
は、にっと頬をあげて笑った。

「久々知先輩」

近寄っていたの頬にある泥をとってやると、
うーと唸る。

「委員会中だがどうした?」
「タカさんが補習でいけない、だから私が来たです」

です。と無理やりな尊敬語にすこしばかりの違和感と
面白みを感じる。
はてと俺が知っているの情報を引き出す。

も、課題があったんじゃないのか?」
「できた。初めて受かったです」

ぱぁっと後ろから後光が差すくらい喜ぶ彼女の頭を後輩のように撫でる。
撫でたらは気持ちよさそうに頭をあずける。
あれからとは随分と仲良くなった。
飾らず素直な彼女は、わかりやすく人と触れ合うことを苦手と
している俺だが彼女なら壁を作らず接せれた。

「そういえば、先輩って呼ぶようにしたな」
「敬っている人は先輩つけるって滝が言ってたです」
「敬うって、そんな大げさなことしてないぞ」
「してる」
「久々知先輩は私を」

は、俺とあった最初のような真剣な顔で何か言う前に、


「はーい、タカ丸さんの代わりに僕参上」

綾部が出た。
今日は綾部かとはーとため息を吐く。
と仲良くなることは俺は嫌ではないが、
と仲良くなることを嫌がっているのが二人。
平と綾部だ。
と仲が良い二人は、完全警戒心丸出しで、
と会話するたびにと何かするたびに出てくる。

「久々知先輩。こっちでいいです?」
「あ、ああ。よく覚えたな」
「久々知先輩が言っていることはちゃんと覚えているです」

照れ照れとほめられたことを純粋に喜ぶに尻尾と耳が見えて
頭を撫でたい衝動にかられたが横から凄い視線を感じる。
いつも大きな目だが、今はもっと大きな目をしている。
なんだと聞く前に綾部はじりっと俺に近寄り脅した。

「可愛いとか思ったら落としますよ」
「別に、そんな」
が可愛ないはずないので、やっぱり落とします」
「・・・お前、俺を落としたいだけだろう」
「違いますー。埋めたいだけですー」

あまり無表情な綾部がふわっと可憐に笑った。
美少女顔負けな彼にドキリとしたが、
俺の生活内に穴が増えて、罠を外すたびに、ちっと舌打ちが聞こえたり、
落ちたら落ちたで上から砂をかけられたり。
はっきりいってを守る彼らはとても厄介だ。
おかげで、居心地がいいの側になかなかいれれない。


二人がちょっと遠くの任務へ出かけてくれないだろうかと切々に祈っている。






久々知先輩とが出会い仲良くなり、
そのさまを邪魔しまくった私達にとうとうが怒った。

「なんで一緒にいるのを邪魔する?」
「邪魔なんてしていない」
「嘘。滝嘘つくと眉毛動く」

まさかと思ったが眉毛を隠す私をみて、ほらやっぱりと
は胸を張った。
簡単な誘導尋問にくそと思っていると、
喜八郎がふてくされた顔でをみる。

「なんで久々知先輩なの?」

私も気になった質問だ。
は少し視線を下にしてから、数秒考え
答えを口にした。

「一緒にいれば、忘れない」

の答えは私の賛辞を傷つけるもので、
完璧無比な私がつい我を忘れて大きな声で叫んだ。

「このごろ、成績が良くなったのは久々知先輩のおかげか?
私のほうが、美しい賢いし優秀だ、
久々知先輩より身長が足りないけど、あと1年すれば追いぬくし」
「僕だって天然レベルをあげとくし、
豆腐のかわりにプリンを語れるようにしとく」
「「私・僕が久々知先輩以上になるから」」

喜八郎とかぶったのはいただけないが、からは
動揺が見て取れた。
近寄る私達にはにかんで、それから眉毛を八の形にした。

「困ったけど、嬉しい」
「じゃあ、もう久々知先輩のところに行かなくていいでしょう?」
「それはできない」

きっぱりと言い放った拒否の言葉に、憤りと悲しみを
感じていると、は、私たちを見て哀しそうな顔をして、

「悲しいのはイヤ。だから話す」

そういって話し始めた。

「私は馬鹿だった」

は私達を見ずに遠くの方を見つめながら語り始めた。

「馬鹿すぎる子供は、生きていけない。
私はあのままいれば、ここにいることはなかった。
でも、私はここにいる。
それは、アレに出会ったから」
「アレ?」

アレの正体を尋ねるとは答えづらそうに口をモゴモゴ動かしている。

「・・・アレの正体は私には分からない。
アレは私に願いを叶える代わりに私の馬鹿を治してくれる」

願いとは?それを聞かなくてもなんとなく分かっていた私だが、
はその願いを口にした。

「アレが望んだのは、久々知兵助を見守り、愛し愛されること」

が言うには、アレは彼女の中にいるらしい。
本当か嘘か疑わしかったが、
確かに久々知先輩といるようになってから、
の成績は軒並み上がっている。
なぜ久々知先輩なのか、そんな大雑把な願いどう叶ったか判定するのか、
色々問いただしたいことがあったのに、
は、目を細めて、私達に触り、

「久々知先輩が側にいれば、賢くなれる。
滝も喜八も忘れない。迷惑だってかけない。
私は今よりも二人をわかれる」

そういって、嬉しそうに笑う彼女に、何も言えなくなって
私と喜八郎は泣きそうになった。
嬉しい。けど悲しい。
こんな複雑な気持ちは、馬鹿な彼女どころか
天才な私ですら分からなかった。










2011・11・23

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