ばかなコ



課題を見てくれる優しくて頭のいい
年下だけど、同級生の平滝夜叉丸くんは、
ピンクの服を来た一人の少女を僕の前に出した。
滝くんは、女の子とまともなコミニケーションをとれていないと
思ったからびっくりしたけれど、もっと驚いたことに、
僕の課題を教えるときにはいなかった綾部 喜八郎くんは
ここにいるということだ。鋤を持って泥だらけのところを見ると
今日の穴掘りは終えたらしい。
滝くんと喜八郎くんが少女に柔らかな眼差しを向けて、
仲がいい二人がもっと仲良く見えた。
そんなこと出来る少女に興味がひいて、
一向に自己紹介をしない彼女に僕は笑顔を向けた。


「はじめまして、僕、斎藤タカ丸だよ。君は?」
。斎藤さん?」

頭をかしげる彼女に違和感を感じていると、
滝くんは、彼女の前に出て説明をする。

「タカ丸さん、すまないが、は長い名前はあまり覚えられない。
、タカさんとかだったら覚えられるか?」
「うん、頑張る」

その後、4年で仲がいい田村 三木エ門くんに聞かされた。
ちゃんは、くのたま一の馬鹿で、記憶力が常人ではないことを。
たしかに、ページを捲って、すぐに名前を忘れられたのは凄い思い出だ。
でもちゃんは。

「悲しい?」

急に出てきたちゃんが僕の顔を覗き込んで、目をあわせて尋ねた。
突然の言葉に驚いたものの、すぐに取り繕うとする僕に、
ちゃんの、僕と同じ目なのに、鏡みたいな透きとった瞳が
僕の真実を映し出しているような気がして、目を逸した。


「え、えーと、悲しくなんか・・・・・・なんかないよ」
「これ」

ずいっと目前にちゃんは紙を押し付けてくる。

「なにこれ」
「私の宝物」

そういって本当に幸せそうに笑うものだから、
色々な問いはすべて奥に引っ込んで、紙をめくった。
めくって正解みたいで、ちゃんの笑は濃くなった。

「いい家族だね」

手紙にそう返すと、ちゃんは、目を細めて笑っていたのを、
口まで広げて、馬鹿面だけど正直に自分の気持ちを僕に表した。

「そうでしょう?嬉しい?」

聞かれたことが分からなくて頭を捻る僕に、彼女は言葉を重ねる。

「悲しいは悲しいから、嬉しいになってくれると嬉しい」

ちゃんは、馬鹿かもしれない。
記憶力が悪いかもしれない。手がかかってしょうがないかもしれない。
今だって、きっと僕の名前を忘れている。
たった二文字の名前を忘れられている。
それでも、ちゃんはとても正直で、温かい。

あの気難しい二人が懐いているのが分かる気がした。




「どうしたんだ、急に笑ったりして」
「あ、僕笑ってた?」
「ああ、にやりと笑って気色悪かった」
「ひどい、兵助くん」

今が委員会中だということを忘れて、ちゃんのことを思い出していた。
ちゃんは僕の周りにいなかったタイプで、
いてほわっとする子だ。
じっと目の前の先輩にして年下の久々知兵助くんを見る。
なんだ?と頭を捻る。
彼は顔もいいし優秀だし頼りになるし、髪も十分素敵なのだけれど、
どこか抜けている。
いや、真面目すぎるのかもしれない。
兵助くんもちゃんに会えば、変われるかもね。
と思いながらも、4年い組の彼らがちゃんにあわせるはずない。

カーンとどこかで鐘の音がして、今日も課題を教えてもらう
約束をしていることを思い出した。

「ごめんね。兵助くん。僕行かなくちゃ」

急いでいたからいけなかった。

「なんだ、タカ丸さん忘れものして、しょうがない届けるか」

急がなかったら、兵助くんは僕のところへ来なかったのに。







急いでいくと、今日は生徒は一人だけじゃなかった。

「あっれー、ちゃん。来てたの?」
「実習の予習をしてる」
「へー?」

ちゃんは、補習が多く、実習が普通のくのたまの倍あるらしい。
実習自体は、簡単なもので、
まず傷を負わない程度なので心配はいらないらしい。
問題なのは、数週間経てばちゃんが名前を忘れることらしく
行く前に二人の名前を復唱して、
知っている人の特徴と名前を紙を書いている。

「あ、僕の名前は、タクアンじゃないよ」
「・・・タクさんじゃなかったけ?」
「違うよ。あのね、僕の名前は」
「タカ丸さん、忘れ物」

僕の名前を言う前に、兵助くんの言葉で遮られた。
気分転換に軒下に出ていたので、
兵助くんは僕を簡単に見つけれて、
違う通路にいたのに、すぐに僕の近くに来て忍たまの友を渡した。

「あ、ごめん。ありがとう。兵助くん」

これを忘れてどうするんだ?と呆れた顔をされたけれど、
すぐに話題は変わった。

「見つけた」

僕の横にいたちゃんが、そうつぶやくと、
見たこともない真剣な顔で、兵助くんの腕を掴んだ。
いきなりのことだったので、兵助くんは反応出来なかったようで、
容易に腕を掴まれた。

「私と付き合ってくれ」









2011・11・7

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