噂なんて当てにならない。そういうもの。
僕が6年連続不運委員とか、そうとうの不運とかは、噂になるまでもなく事実だけど。
学園長のいつものおもいつきで、始まったくのいち&忍たま合同ぐちゃまぜ、
合同レクレーションペア対決で、今、噂のと呼ばれる少女がいる。
「はじめまして」
と内面を隠して、手を出したら、
「よろしく。5年くのたまのです」
と笑った。少女は柔らかそうな髪質をして、大きな垂れ下がりの目で、
可愛い外見をしていたけれど、竹谷に捨てられて、あの子へ復讐で
自分じゃなくて蒼を使った卑怯なくのいちだ。
蒼は、留さんの彼女で、彼女がそんなことをする人じゃないって知ってるだけに、
僕はくじを引いて、相手がこの子だと分かって
本当に自分、不運なんだなって思った。
あんまりいい気はしないものの。歩みを進める。
喋りたくなかったけど、このレクレーションの上位は、休みとか食券とかで、
最下位は、補習三昧だから、そんなことは言っていられない。
「で、どこを狙うの?」
1・2・3・4のポイント地点でヒントを貰い、隠されたものを探し、
最終地点で渡す。それまでに奪い合いありの競技だ。
地点1・2・3・4と書かれた地図を彼女はじーっと見て、
僕に渡した。えっと思ったのも。つかの間、
「先輩、みんながいなくなったら行きましょうか」
と一言言ってくるりと方向転換。
あれ?
「!!!」
満面な笑みで抱きついてきた少女・蒼を抱きとめる。
あれ?
おかしいな。だって、利用された人間ってこんな顔をしているっけ。
留さんに向けるような蕩ける全てを許した人の顔。
そして、騙した人へ向ける顔はこんなに穏やかな顔だっけ?
みんながいなくなって、テクテクと先を歩く少女。
先ほどの不快感よりも疑問が頭に残って、そのまま穴に落ちた。
噂が悪くて組みたがれない少女と、いつも不運で組みたがれない僕。
考えてみればお似合いだと言うことに気づいた。
上を見れば少女が手を出して、
「嫌かもしれませんが、最下位は嫌でしょう?」
と苦笑した。
ああ。そうか。
君は僕に嫌われていることをちゃんと知っていて、
出発する前も僕の傍にいなくて遠くにいた。
手を握れば、傷だらけの手でだけど僕よりも小さく柔らかい手だった。
前を歩く少女は、無言で、ポイント地点とか作戦とか会話はなくて、
僕はただ少女の後ろを歩くだけで、居心地が悪い。
だから、地図を広げれば、彼女はどのポイント地点も目指していなかった。
「ま、待ってよ。今どこに向かってるの?」
もしかして、方向音痴なの?
ぴたりと止まって僕を待つ少女は、ある場所を指差した。
上を見れば、遠くの場所で小さな黒い影が動いたのを見れた。
「あれは」
「先生です。あそこに隠したみたいですね」
まさか。そんな偶然あるわけないと、半信半疑でその場所へ向かって、
大きな石の下を見れば、巻物が一本。
開けば、「当たり」と書かれていて、僕は彼女の方を見た。
「なんで」
「私、悪運強いんです」
運が強いじゃなくて、悪運が強いと言って笑った少女は、
完全に不運に嘆く僕よりも強くあった。
ようやく、噂を抜いて少女が見れた気がして、頭を下げた。
「ごめん」
「・・・・・・私は何回謝られるんだか」
「え?」
「あなたの反応が普通でしょう。どうってことないです」
と、顔を逸らした彼女に、透明の膜が見えた。
透明で綺麗な膜。
人を寄せ付けないためのものはあまりに綺麗で、逆に人を寄せ付けることを知らない。
傷ついているのが分かるのに、懸命に隠そうとする君は、
きっと噂どおりのことはしていないんだろうと、なぜか核心を持った。
本人を見なければ、噂はあてにならない。
だから、違うごめんを言う。
「僕の名前 善法寺 伊作っていうんだ」
見開かれた目に今度は僕が苦笑して。
「六年間の不運委員長だけど、足ひっぱちゃうかもだけど、よろしくね?
えーと、ちゃん」
「・・・ちゃんは恥ずかしいので、でいいです。善法寺先輩」
ようやく先輩じゃなくて苗字で呼ばれた。
手を無理やり握る。握手。
「じゃぁ、僕は伊作でいいよ」
呆気にとられて口まで開いている。
口を閉じたときにはじっと手を見ていたけれど
「よろしくおねがいします。伊作先輩」
と言って手を握り返された。
やっぱり、の手は、僕より小さくて柔らかい手だった。
2010・1・11