昔、私がこの学園に来たとき。
私は蒼しか知らなかった。他の人を頼ると言うことをなかなかしない子供であった。
だからだろうか。みんなから一線を引いてしまったようで、私はいつも一人だった。
大きな草原でのんびり木々をみて動物や昆虫と戯れる方が多かった。
死ぬときは一人なのだから、一人でもいいのだ。
と屁理屈をこねて人の輪を否定して、いや馬鹿にしていた。
死を生を知らぬ甘い子供などと一緒にいれること自体間違えなのだと
タカを括っていた。
そんなある日。その日も草原で遊んでいれば、「ちっくしょーどこだ?どこにいるんだ」
という声が聞こえた。一人でいたかったのに、なんて邪魔者。
だけれど、去るのはなんか悔しい。だって、ここは私の場所だ。
だから、存在を無視していれば、「なーなー。お前さ。虫見なかった?」
彼は馬鹿であった。
虫と言われてそこらにいると答えた私は、間違ってはいない。
それが最初で、彼はそれから何度も何度も私と出逢った。
邪魔者が邪魔者ではなくなったころに、彼から告白をされ、
私は、呆気に取られたものだ。
よくもまぁ、こんな可愛げもない女。好きになったな。と口にすれば。
俺から見ればは、とっても可愛いけど。と真顔で言い返され、
真っ赤になった思い出がある。
付き合った後も、彼とは、よくくだらないことで喧嘩して、
怒って叩いて、罵って、最後に隠れたけれど、
いつも最後には探し出して謝ってくれた。
私が100%悪くても悪かった、って先に言うのはあっちで、
私はそのたびに言い知れぬ焦りを感じて、
「違うんだから。私が絶対悪いんだから。ハチは謝らなくて良いの」
って変な謝り方をして、喧嘩した後は仲直りの口付けして、
もっともっとお互いのこと知っていって。
「なぁ、。学園卒業したら、結婚しよう」
って言われて、涙が出たの覚えてる。
あんまり泣かない私を焦って、いつのまにかデバカメしていた彼の友人は
良かったなとか冷やかして、
ハチが、照れながらもとっても幸せそうに笑うから私も幸せになれるんだって、
一人で生きていかなくてもいいんだって、初めて安堵したの覚えてる。
・・・・・・馬鹿だな。私。
目の前にハチがいる。
随分、昔のことなのに、
同じ人物なのに、感情だけでこんなに変わるんだなって思った。
なんで、今、こんなこと思い出すかな。
ハチは、もう私に笑いかけない。幸せではないから。
私に別れを告げてあの子を選んだから。
それどころか、怒って少々殺気だった顔。
そんな顔できるんだ。初めて知ったよ。
だったら、あのころの私はあなたに本当に好かれていたんだね。
良かった。
「最低だな。お前が、蒼先輩をけしかけたんだろう?」
ハチ。髪の毛ボサボサだよ。ちゃんと手入れしたら?
「なんでだよ。お前そんな奴だったのかよ」
んー。面倒だな。
「お前と、別れたのはあの人のせいじゃない」
じゃぁ、洗ってあげようか?
「俺が悪いんだ。殴るなら、俺を殴れよ」
は?え、まじで、ちょっと、待って。風呂の準備と入ってこないように張り紙を。
「おい、。なんとか言えよ」
ばーか、嘘だよ。エロえもん。
「おい!!」
笑い声が小さくなった。何を言っていたのか。分からないけど。
「ごめんなさい。嫉妬したわ」
嘘。嫉妬なんて、しない。
だって、私、もうハチのこと。
好きだ。大好きだぜ。。
嫌いだから。
何を言ったか分からないけど、謝った。後ろでつまんなそうに閲覧している
あの子が見えて、何が望みだったか分からないけど、
ハチも、気が抜けたって顔してるし、謝られるってこと想定してなかったのかな。
馬鹿。
泣きも怒りもしないよ。だって、私もう彼はいらない。
『なぁ、。俺達ってきっと蜘蛛の糸で結ばれてんだぜ。
嫌とかいうなよ。あの時お前と会えたおかげの虫は蜘なんだから。
しかも、お前の指に乗ってたじゃないか。
は?言うなって。お前、俺達の愛の使者に、嫌いはないだろ?
照れるな、照れるな。おまえの嫌いは、好きの裏返しだって分かってるんだから』
そんなことない、未練なんてないんだから。
2010・1・10