この作戦の賭け。
順調な作戦の一番の肝で賭けといった部分に、留さんは激怒した。
冗談じゃない。俺は、すぐに蒼に言いに行くと、
彼女らは、静かに言った。


「あの村を出し抜くには、一瞬だけ視線を逸らさせないといけない。
これが一番大きい。冗談じゃないのは同じだ。
しくじれば、私達も殺される。裏切ったから」

そう言われて留さんは黙った。
彼女らが復唱する。

「蒼が、を助けたなら、彼女を救うたった一つの方法が可能」

賭けだ。
昔、蒼はに助けられた。だからこそ。勝率が高く。
だからこそ、勝率が少なくもある。
二つ言われた矛盾の言葉。

助けられた恩と、彼女がを愛している事実。
もう一つは、あの恐怖を一回でも体験しているとのことだ。
あそこに立つだけでも、大きいものなのだ。と
実際人柱にされた親らは見ることすら出来ないで、村を出たものもいるらしい。
どちらに転ぶか。と彼女らは言っていたが、
僕は彼女がを助けに行くことは絶対だと確信していた。
なぜなら、薬が一個なくなっていたのだ。

伊作印即効よく効く眠り薬対文次郎用が。


だけど、なかなか蒼が来ない。
もしかして、途中で諦めたんじゃ。と焦ったけれど、
彼女は来た。その姿を見て彼女らが言った恐怖が分かる。

震えているんだ。あの蒼が。
目は決意が決まっているのに、体だけがかすかに震えていた。

だけど、彼女が来たことで僕らの計画は実行に移せた。
火をつけられた社はよく燃えて、急いで留さんが蒼を連れて行く。
彼女らが、握り締めている手を引き離すのは苦しかったけど、
だけど、またがある。
留さんが、蒼を社から出して、僕はと天女を交換した。
僕の存在は、幻術とやらで綺麗に消えている。
いいや、みんな、蒼と留さんに釘づけで、こちらなんて誰も見ていなかった。


天女さまは泣きながら空へとのぼっていきました。
天女さまは、元来た場所へ帰らなくてはいけないのです。
使者が来て天女さまを連れていきます。
誰も彼女を助けるものはいませんでした。
雨も降りやしない。なんてことない。
彼女は天女ではありませんでした。

おしまい。おしまい。

僕は、の涙をふき取って幸せそうな笑顔に、
僕らの幸せはこれ以上にしようと誓った。



成功したときに会うはずの丘には一人の女がいた。
彼女は仮面をしていなかったけれど、声で、総指揮をしていた女だと分かる。
彼女は、を一瞥して、目じりを緩めた。

「なぜ、を助けるのか。一つはあの存在を許せない。
だが、それだけではなかった。
の存在は奇跡で憧れだ。
人柱を変わるなんて今まで一人もいなかった。
・・・・・・私は、泣いていた妹の手を、最後まで握り締めることが出来なかった。
悔やんでも悔やみきれない。彼女は生きるべきだ」

優しくの髪を撫でる。
黒い仮面をしていたときのような雰囲気を微塵も感じられない。

「それと、もう一つ。
私は、彼女が人柱候補になって以来そばにいた。
は、一人だ。両親にも人柱になったときにすぐに捨てられて、
手を握り返してくれる相手もおらず、
変わりに貰ったクナイを握り締めていた。
は、何も信じてなかった、何も頼らなかった。
ずっと近くで見てきた彼女に、情がわいてしまった。
対象者に情が沸くとは、忍び失格だ。だが、今とてもいい気持ちだ」

ふっと、一瞬だけ笑ったが、すぐ無表情に戻り、
小さな声で生きれいれば妹と同い年だったんだと呟いた。
彼女はぱっとまた顔を変えると、僕に強い視線をよこした。

「彼女を守るクナイは、今お前の手にある。
お前が、を守れ。一人にするな。したときには」

「しない。絶対。このクナイにかけて誓えるよ」

「そうか。善法寺 伊作。ありがとう。この子を幸せに」

そういって、彼女は消えた。
この村では、はもういない。ただしくは、はこの村にはいなくなった。


さぁ、分かった?これが真実さ。
なんで竹谷しか知らない選択を迫られたことを知っていたか。
「僕はと幸せになるのに」って言葉おかしいでしょう?
つい、嬉しくてでちゃったみたい。
竹谷、僕が言ったのは冗談じゃない。

嘘さ。











2010・1・17