僕の仕事とっても簡単だけど、反吐が出るほど嫌なもの。
ただ頬を染めてあの子を誘い出すだけ。
誰も気づかれないように誘い出すだけ。
でもミスは許されない。
彼女は、とても嬉しそうな顔して僕の腕に絡み付いてきた。
なぁに?なぁに?と、しつこく聞く。
僕は、秘密だよ。とてもいい場所へ連れていってあげる。
と言えば、彼女は嬉しそうに笑う。
僕も笑う。心から笑う。だって、ようやく全てが叶うのだから。

が、好きだった場所に連れて行った。
最初は無理やり喜んでいたけれど、長い間いれば、彼女の顔から落胆が見える。
何も起こらない静かな自然の中で、彼女はそれをもはや隠そうともせず口にする。

「つまらない。何もないじゃない。もっとキラキラ綺麗な場所がいいー。
ねぇ、伊作あそこの方が綺麗な湖が見えるよ。あそこに行こうよ」

そうだね。君は、この場所がつまらない場所だろう。
ここが愛しいと思うほど必死に生きているものを知らないで、
君は意味がないって言うんだね。

やっぱり君は救えない。

ふっと、風向きが変わったのを確認する。
ようやくだ。胸元からさらさらと風に乗せる。
ねーねーとうるさいのを放って笑顔でにこにこしとく。

「あのね、君に言いたいことがあるんだ」

ようやくか。となにか違う勘違いをしている君に。

「僕、君のこと大嫌いなんだ。本当顔見るのだけでも駄目。
声を聞くだけで無理。ねぇ、君はここにいるべき場所じゃないんでしょう?
天女だもんね。みんなから愛される天女だもんね。僕は君が大嫌いだけど、
君は君のことが嫌いな僕も許してくれるよね?
じゃぁ、天女なら、大人しく天へ帰ってくれる?」

?は、もはや命令だ。彼女が信じられないって顔している。
いい気味だ。あれ、君、非難中傷なんて初めて?
青い顔で震えている。僕は君に向けて殺気を発しているからね。
殺気も初めて?本当に、君はお気楽だね。
君の世界は、甘い砂糖菓子で出来ているのかな?
それはとても崩れやすそうだ。
震える唇で何かを叫ぼうとしている。彼女の守り人たちに守ってもらうのかい?
無理だね。君はもう声が出ない。
じわりじわりと、眠るように、ね?さようなら。

僕は、彼女を大きい布に隠した。
その間に、彼女らは成功しているだろう。

僕も見たかったのに。あーあ。
天女さまが天に昇る幻想を。




今、俺は伊作に変装している女とともに、天女が上へ登っていく光景を見ている。
5年生の中心にいる天女は、人柱を監視していた女が化けて、
もう一人は幻術で、彼女を空へ登らせ、天へ帰らせた。
この方法は、学園長がお出かけしていること。
教師の幻術がとくいな人物がいないこと。
ここに、伊作はいたと他の人物が見ていること。

6年が俺らの傍で見ているから伊作はここにいたとみんな証明するだろう。
学園長は、久しぶりに友人が近くに来ていたらしい。
その人は、道中何者かに襲われたらしく見舞いがてらに、
新野先生を連れて行った。幻術は薬を使うから、薬に強い先生と学園長がいない。
その状態であれば、一分間。誰をも騙せると、彼女は言った。
実物をみてなるほどと思う。誰も、あれがまやかしなど思わないだろう。
しかも用心深く最初はちゃんと触れる人として演出している。
6年生の誰もが口をそろえて、帰ってしまったと言っている。
先生のほうを見れば、信じられない顔していて、本当に天女だったのかなんて呟いていた。

はっと俺は笑いを堪える。
馬鹿だな。天女なんて所詮まやかしなのだぜ。
もしいたとしても、あの女がそうであるはずなんてあるわけないだろうに。
あれは、ただの我が侭で世間知らずの女だ。

俺は、くるっと、彼らから背を向けた。
さあて、伊作は上手くいっただろうか?













2010・1・17