「これをもて」
と渡されたのは一本のクナイだった。
初めてクナイを握ったとき、その無機質の冷たさに泣きそうになった。
それが一番最初の泣いた記憶。
そこからは、何度泣いたか分からないから省略。
「えーそんなものあるの?非科学的だよ」
「非科学的?」
「ありえないってこと。だって、人柱なんてしても意味ないんだよ」
あなたの世界、平成では、当たり前のことだけど、言う場所を間違えた。
人の多い、食堂で彼女に気に入られた5年生と一緒に食事しているなかでのこと。
彼女は愛されているので、頑張ったという名目で一週間に一、二回
彼らと食事が出来る。
彼女は、ニコニコ笑顔で、なにが嬉しいのかよく分からない。
きっと知識を開かせることに夢中で、周りが見えていないのだろう。
「へーそうなんだ。人柱って意味ないんだ」
と、私の元恋人が平然とのたまった。
そういえば、彼のところは穏やかな所だから、
人柱の噂があるけれど、本当にあるかどうかは知らない程度だった。
私は、コトンとお盆とお茶を返却口に置いて、食堂を去り、
誰にも気づかず人ごみの中紛れた。
ちらりとこちらを見下げる父母の目はとても冷たく。
それ以上に冷たいクナイを泣きながら、握り締めた。
それが私を守るもので、子供の私を守るはずの両親達は私の手を離した。
私が人柱で神の生贄候補であるがゆえに。
私を守るものは、私自身だ。
分かっていたはずなのに。どこかで、否定を期待していた。
2010・1・10