黒コゲの社の前に、一人の少女が立っていた。
少女は、社を強く睨んでいた。
その後ろに、一人の男がそっと肩を抱いた。

「留」

「悪いなんて言わんねーぞ」

「・・・・・・分かってる。だけど、納得できないだけ」

と、男の胸に寄りかかる蒼は、少し疲れたように、社を見ていた。
蒼が薬を飲んで、目が覚めたら留三郎が傍にいて大丈夫かと言われた。
自分が生きていることが夢幻か分からず、抱きしめられた留三郎の体温の温かさに
自分が生きていることを感じられて涙が出たけれど、

は?」

彼らは顔を曇らせた。
蒼は、暴れた。
なんてことしてくれるの!なんで私だけ助けるのよ。
私だけ助かっても意味がないのよ。意味がないの。
なんで私があそこに行ったか。分かるでしょう?
分かってよ。が、が、一人になちゃったじゃない。

と、暴れた。暴れて暴れて、両親も恋人も手がつけれなくて、
薬によりまた眠らされて、
今度目が覚めれば、忍術学園だった。
理由は、あの場所にいてもきついだけとの判断だった。
留三郎が、優しく自分の額にかかる髪をどけて微笑んでくれたけど、
殺されかけた敵のようにしか見えなくて、鋭く睨む。

傷ついた顔をしても駄目。
駄目なの。

彼は、布団を被ったまま出てこない蒼に、ゆっくり事実を話した。

薬を飲んで二人眠った後に、留三郎が、村人に蒼が死ぬ必要はないと言って、
燃える社の中から、蒼を救ったこと。留三郎の手の中には一人だけで、
社から出た遺体も一人だけだったこと。
は、最後、幸せそうに笑っていたこと。

「お前がいたからは幸せだった」

と言えば、蒼は留三郎に殴りかかった。
馬乗りになって殴って殴って、留三郎もそれを受け入れてて、
何時間そうしていただらう。殴った手が徐々に弱くなり、
蒼は泣いた。声を出して子供のように泣いた。

そうして、謝った。何度も何度も。

を、一人にしないなら死んでもいいと思っていたのに、
今自分が生きていることが幸せでしょうがなくて、
だけど、一人で死んだに、なんていっていいか分からなくて。
を一人にさせて嫌いにならなくちゃいけない留三郎を、好きで愛してて、
憎みきれないくて、全てに蒼は泣いた。

泣いて泣いて泣いて謝って謝った謝った。
すべて流れるように落ちていったころ、

伊作が来た。


今、社の跡地に一人増えた。
彼は、社を二人と少し離れた場所で見て、言った。


「蒼、ここにはいないよ」

「伊作」

蒼は伊作を睨みつけた。
伊作は、それに満面の笑みで答えた。

「じゃぁ、行こうか。蒼。留さん」














2010・1・16