真っ白い服に着替えたのは、二回目。
蒼が儀式を行った時以来の服を通す。
周りの皆の目が、同情と逃げ出さないか確認されている中、
私は、一人豪勢なご飯を食べる。
久しぶりにこんな美味しいご飯食べた。
幸せ。もぐもぐと口を動かす。
人柱となり少女の最後の三日間は、かなり快適だ。
今まで食べれない豪勢な食べ物。温かな布団。欲しいものはなんでもしてくれる。
なんでも、ここから出るという以外の全てを叶えてくれる。
三日間一人で部屋にいるのは、とても暇なので、
いつものように大の字で寝てみた。
冷たい。原っぱで寝たい。でも、もう叶わない。
言えば、連れて行ってくれるかもだけど、何か違うから、しない。

目を瞑れば、暇が、私を連れ戻す、昔々の私に。

私も、あの子のように、
人柱が意味のないものだって知っている。
あの「天女」が、普通の女の子だって、知ってる。
「天女」というのは最初から、幻想だってこと知ってる。


ガタコトンガタンゴトン。

この音は、電車の音。
鞄の中身は、食べかけのポッキーに、新品ポッキー。
チュッパ数個に、化粧品、筆箱、ノートに教科書になんか。
動くたびに、ごちゃごちゃ異物同士が混ざる音がする。
音楽ポータブルはポッケの中、カイロとともに入ってる。
携帯は手の中。近くにいる人よりも、携帯の文字の方が仲良しで、
寒いのは、短いスカートだから当たり前な事実を、受け入れず、
ブルリと変わりに震える携帯のボタンを押す。

「もうすぐ、電車が来ます。黄色い線を〜」なんてお決まりな言葉聞いて、
ご飯食べて、その後、遊ぶ予定は入ってるからと、
ぼーと横の路線を見てれば、同じ制服の知らない男らのひそひそ声が聞こえた。

「あれ、凄くね」

「こんなところで告白とか、ありえねー」

なんて、嫉妬まみた声に、暇だから顔上げた。
いつもなら、聞いているはずの音楽は、なんとなく外していた。それが悪かった。


あの世界で、今の私以上の年の子の私が、
この席の三分の一がいなくなればいい、とか笑えて言えた。
おいおい中二病かよ。お前が死ね。とか、周りはおかしそうに笑ってた。
それは、親愛で、本気なんてありえない。ただの戯れ。
戦争の話とか人が死ぬ話は、ブラウン管でみた。
煙がモクモク上がって、人がちらちら見えて黒白。
ブラウン管で、違う国が戦っているのを、映画のように見ていた。
自分の国でも、何人かが死んで、死人が映らない現場の動画と、淡々と言う人の声。
それら、こんなことがあったと一日で終わるような話にしてしまえる
死ねとかとても身近な言葉なのに、死ぬということに縁遠い世界だった。
そんな平和な世界に住んでいた。
人が死ぬことは当たり前だけど、人が目の前で死ぬことが異常な世界で、
私は平凡に生きていた。
17歳なのに、誰一人としてマジカで死を確認したことなかった。

ずっと生まれてから変わらず、同じ所にすんでいた私には幼馴染がいた。
彼は、とても社交的で明るくて、どこか引っ込みじあんな私を、引っ張り出してくれた子で、
好きだけど、彼はとても人に好かれたから自分なんかがなんて思っていた。
だから、彼から告白されて、嬉しくて涙でて、私達、恋人で、恋人のはずだった。

高校は別々な所へ行ったのがいけなかった?
ううん。今日だって遊ぶ約束したのは彼だった。
すぐ隣だから、離れていても離れているように感じなかったのに、
どうして、彼は知らない子に頬を染めているんだろう。
どうして、彼は彼女を抱きしめているんだろう。

手を伸ばして、止めてと叫んだ。
でも、場所が悪かった。そこは電車。もうすぐ電車が来るはずだった。
私と彼の間には路線があって、それを忘れて、手を伸ばしてしまったから。


私は、17歳にて始めて人の死をマジカで見た。
それは、自分だった。
上から見あげる私の体。ボロボロで、きたない。
私の死を、泣いている人たち。
私が愛した人も泣いていた。愛してたのに、好きだったのに、と泣いてくれるから
彼に対する黒い思いは、ゆっくりゆっくり風化していくはずだったのに、
彼を慰めたのは、あの子で、徐々にあの子は私の代わりになって、
彼も私を忘れて。
彼は、私の写真全部燃やした。私の思い出全部燃やした。

愛していた。好きだった。そのぶん、憎かった。
私はずっと彼のそばにいた。彼とあの子結婚して、私を忘れて笑っていること
どんどん憎くなって、彼らを苦しめた。
私が死んだのはお前らのせいだ。私だってまだしたいこと一杯あったのに。
たくさんあったのに、あなたと結婚して、子供だって欲しかった。
色々まだやり残したことたくさんあるのに。

憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。
それしかなかった。

ある日。訪れたのは、一人の僧。
彼が私の正体、全部彼らに言った。
彼は、顔を歪めて、こんなに苦しんだんだ。お前のこと忘れようと必死で、
ようやく幸せになれたのに、なんで。と悔しそうに泣いていた。
あの子は、私じゃない方向を睨んで、もう解放して。と言った。

僧が私を見る。
なんで、なんでだろう。涙が止まらない。
上へあがろうと優しく言ってくれた僧の人に、

謝って欲しいわけじゃない。忘れて欲しくなかった。
一回でも私のお墓の前で好きだったて笑ってくれれば。

それでよかったのに。

僧の人は、優しい人だから同情した眼差しで、
一回私の頭を撫でた。次は幸せで、死んでいこうね。と。

それが、私を浄化させた言葉だったから、
幽霊となった時間は、生きているより長い時間で、初めて優しくされたから、
彼のこと憎みすぎて、好きで幸せだったこと他にも色々な人との、
楽しい嬉しい大好きを全部忘れてしまっていたから、
次こそは、恨まないで幸せで死んでいきたいと強く願った。


だから、私は幸せだ。まだ幸せで死んでいける。
今度は、幸せで死んでいくんだ。
あんなに苦しくて悲しい長いときをまた一人。
憎いだけの思いで漂うのは、もう嫌なんだ。


だから、私は幸せなはず。









2010・1・14