手を大きく広げて、草原の中にダイブした。
手を掲げれば太陽を消せるけど、横にずらせばいる存在。
別にあなたが悪いわけじゃないんだけど、
でも、どうやら私、あなたが光っているせいで死ぬらしいよ。
これは、確定らしいよ。ああ、やっぱりあなたが悪い。
目を覚ませば、伊作先輩がいた。
深刻そうな顔をして私を見ていたから、蒼が何をしたのか分かって、
ため息がこぼれた。
「、僕と結婚しよう」
そう言われた言葉に今度は涙は出なかった。
人が悪いわけじゃない。どうして彼がそんなことを言ったか分かったからだ。
私は、よっと腹に力をいれて立ち上がり、草をはらって、伊作先輩に背を向けた。
伊作先輩が、私の肩に力を入れて留めた。
いつもふわふわして優男の先輩はどこにもいなくて、
そういえば、この人は男で年上だったと急に悟った。
「僕じゃ、駄目?竹谷じゃないと」
「違いますよ。先輩。私は、彼に未練なんてないです。
それに、伊作先輩のこときっとあなたが思っているより好きです。
そうじゃなければ、最後の時間使って、あなたのそばにいませんよ」
「じゃぁ、なんで」
祈るような声に、苦笑しか出ない。
なんで、ってあなた。
「伊作先輩。急に結婚だなんて、普通はひいてしまいます。まず、恋人からで」
「っ、そんな時間がないの。だって分かっているんでしょう」
ギリと骨が鳴いた。保健委員で体のことなによりも見ている先輩が珍しい。
ここまで、本気だということか。
本当に、蒼は、この短期間で人を良く見ている。
この人は、良い人だ。
「だから、なお、かな」
「え?」
ふっと緩んだ手を外して、笑う。それ以外私に方法はないから、
馬鹿の一つ覚えみたいに笑う。
「先輩、同情って結構悲しんですよ」
それは、とても、とても悲しいんです。
「だから、私は、ハチになかなか言えなかった。
愛情が同情になるのが怖かった。きっと、どこかひねているんです。
蒼のように、真っ直ぐ行けば、こんなことにならなかった」
大きく、両腕を開いたら、風が吹いた。
良い風だ。あと3日後、私この中に入るんだ。
目を瞑れば、お日様のような笑顔。
きっと私はどこかで蒼い空の太陽を愛していた。
透明な膜が、徐々に色濃くなる。
そんな気がした。
の大きく開いた両腕の上から抱きしめる。
同情は悲しいって?
侮らないで欲しい。いくら友人に言われて、明日死ぬといわれて、
それだから結婚なんていうほど僕はお人よしじゃない。
いま、はっきり分かった。
僕は、透明な膜が分かったときから、君に惹かれている。
だから、殺させたくない。
一緒に生きて欲しい。でも、何を言っても彼女は駄目なんだろう。
今は、竹谷じゃないと。
もう少しだけ、あと一週間ぐらい時間があれば僕を選んでくれそうなのに、
なんで、君を捨てた男なのに、あの生物馬鹿の、ボサボサの、糞男・・・
考え付く限りの罵詈雑言を言ったけど、の心は変わらない。
悔しい。悔しいくてしかたがない。
一番悔しいのは。
「なんで、君は笑うの」
「なんでって」
「泣いていいよ。精一杯、泣けばいい」
「・・・・・・泣いてなにになるの」
の顔は変わった。笑いから無表情。
声も、敬語が取れて素のが出てきた。
「私はあなたよりも早く死ぬ。ただそれだけ。
治療をするあなたなら分かるでしょう?
私は死人と同じように何かが欠落していることに。
だから、気にかける必要なんてない。昔から、死人に似ていた。
死人が本物の死人になるそれだけ」
「違う!!君は生きてる。
ちゃんと僕と同じようにあったかくて脈だって動いてるし息もしている」
ぎゅと強く抱きしめる。
僕の体温も君の体温も温かくて、ちゃんと心臓も動いているのに、
は、僕の腕を離して。
「世界が違う。私の世界は、死ななければいけない世界なの。
伊作先輩は、・・・忍び目指してるって言ってたけど、似合ってないよ。
癒してるときの方が生き生きしてる。
そんな人、私は好きになった。あの短い間で、それって、すっごく奇跡なこと。
私、泣かないのは、凄く幸せだからだよ。
だから、
だから、あなたは違う世界で生きていて」
と、やっぱり彼女は最後まで笑って、
「これ。私を守っていたもの、もう必要ないから先輩にあげる。
きっと、不運じゃなくなるかも」
と死にいく人に見えないほどの明るさで、僕に一本のボロボロになったクナイを
渡して彼女を風のよう誰かが攫っていた。
僕はただクナイを握り締めて、出てきそうな涙を乱暴に拭った。
は、泣かない。幸せだから。
僕も、泣かない。君と幸せになるから。
2010・1・13