着いた場所は、大きな草原。
植物や昆虫や動物は大勢いたけど、人は一人だけだった。
人は、規則正しく胸が上下し目を閉じている少女で、
眠っている顔があまりに穏やかで、あまりに幸せそうだから、
僕が言われたことは全て嘘だったんじゃないかって疑ってしまった。
「伊作。無理やり巻き込むこと、最初に謝っとくわ。ごめんなさい。
でも、もう手段が選べないほど時間がないのよ」
「時間って」
「聞いて、伊作。私達は、・・・いいえ、は人柱。神様の生贄候補なの。
雨があまり降らない私達の育った場所は、雨を降らすために村の女の子から候補を選び、
そして一年雨が降らないと人柱として、眠らされて、火をくべられるの。
その子が、天へ届くように。私達は、三人のうちの二人よ」
何を言われたのかピンと来なかった。
先ほどの結婚よりももっと、現実味がなさすぎて、嘘といいたいけれど、
否定することを、蒼の顔が許さなかった。
白い顔をなお、青白くさせ、かすかに震えていて、言いたくないのなら俺がと
留さんが変わろうとするのを、手で制して、蒼は続けた。
「けれど、人柱には掟があるの。
あの村は変なことに、子供を大事にする信条もあるわ。
それは人柱という儀式と相反するもの。
だから、人柱候補が子供を作る可能性があれば、候補から外れるの。
これが、唯一の人柱候補から外される例外よ。例外中の例外。
雨が、二・三年降らないことが常だから、
人柱候補になったばかりで死んだ子のほうが多いの。
私は運が良かった。
時間があって、留がいて、婚約もして、村に報告したから候補から外されたわ」
留さんの殺気が強くなって、蒼が泣きそうな顔をして。
だけど、僕の顔も酷いだろう。だって、そういうこと。
僕は、竹谷とが恋仲だったこと知っていたから。
「でも、は、あの子が来て駄目になってしまった。
があの男にそのこと言って、町に報告すれば終わったのに、
言おうとした矢先だったのに。あの女が来て、あの男がを捨てたから。
それに雨が降らなくなって、もうそろそろ一年たつの」
今なら分かる。
なんで、蒼が叩いたのか、なんで、苦しんで死ねなんて言ったのか。
僕でも、いいや、もっとそれ以上にのことをする。
この場で、僕ら全員悲しい顔してた。
だけど、一緒にいた間のの顔全部思い返してみたけれど、
だけは、笑っていて。
「は、受け入れる気だわ」
僕も、そうだろうと強く拳を握り締めた。
「そんなの駄目よ。許せない。は、幸せになるべきなの。
子供ができて、愛しい人と一緒で、私とで、蒼い空の下一緒に笑うの。
伊作。お願い。同情でも良い。嫌だったら形だけでも良い。お願い。
まだ、間に合う。と結婚して、お願いよ」
蒼は取り乱して、泣きそうではなく泣いて僕に縋りついた。
留さんが、蒼。と名前を呼んで、肩を抱いてもっと泣きじゃくる彼女に
色々な情報が流れてきてパンクしそうな僕の頭は、
友情を超えたものが感じられる二人の絆に、「なぜ」がしめていて。
「なんで」
「なんでそこまで固執するかって?」
泣いている彼女は、涙をふき取ることをせずに、語り始めた。
「決まってるじゃない。私、一回命救われてるんだ。
本当はここに今存在しないで死ぬはずだったのに、が、代わってくれたの」
2010・1・12