「どこに行くの?」

ああ、お前か。どこに行く?むろん愛を助けに行くんだ。
私の知っている限りの情報で、ノボタケ城の情報は殿様が
殺戮好きの女好きのSM好きの拷問好きの変態だということだ。

「僕も行く」

馬鹿。お前死ぬぞ。ノボタケ城の殿はそういう奴だから武器も人も一流だ。
お前なんぞすぐ死んでしまうよ。むしろ足でまといだ

「君は行くんでしょう?」

ピタリと自室の前の柱を二・三回蹴って、
に入れば簡素な自室は武器庫に早代わり。
は、手をクロスさせ手を上げると、
大量にあった武器が彼女のなかに吸い込まれていった。
数秒しかたっていないが部屋、すべて覆っていた武器はいまや空で、
大量の武器をその小さい体に閉じ込めたと思わせないほど彼女の足取りは軽く、
飛び立とうとする前に、手を大きく広げた伊作が立っていた。

「君を死なすわけにはいかない」

の目は、赤いままで殺気も治まったといえども、いつもと違う雰囲気。
分かっているだろう?私は今プチ切れている。それを刺激したら、どうなるか。
でも、彼はとても綺麗ものを零した。
それは、とても綺麗な軌道を描いて、木の床に落ちて染みをつくりそのまま消える。
邪魔をするな。殺すぞ?とクナイを首元につけようとしていた
頭が冷えた心地で、彼に近づくといつもの笑顔で笑った。


「馬鹿。お前はちゃんとここまで待って、愛を治すんだ。私は必ず絶対愛を生かして
帰ってくる。これは私の役目。お前の役目は帰ってきた愛をちゃんと治療することだ。
分かったらさっさと、保健室で待っていろ。伊作」



『夕焼け小焼けで 日が暮れて
山のお寺の 鐘が鳴る
お手々つないで みな帰ろう
からすといっしょに かえりましょ』



昔一緒に口ずさんだ曲。
真っ赤な夕日に影は二つ。
小さい頃、帰る場所もないのに手を繋いでいれば大丈夫だと思っていた。
今でも、変わらずに手を繋がなくても、愛がいればどこへでもいけると信じているから。
それを邪魔するものは誰であろうと許せないんだよ。
あと、少しで愛がいるであろう城へ辿り着くのに、
いつもと変わらない糞爺が私の行く手を止めた。

「なんのようだ、学園長」

「お主がどんなに強かろうと一人の人にしかすぎぬ、
それを過信してはならん、よ。
情報もつかんでおらんで、そのまま正面突破するきか?死ぬぞ」

「っは、情報を掴むのに早くて二三日かかるだろう?それでは、遅い。
ノボタケ城に愛が攫われた。それだけで十分だ。
早くしなければ、愛は殺される。愛が死ねば私も死ぬ。
どのみち、先は同じだ。同じ先ならば私は足掻く方を選ぶ。そこをどけ、学園長」

「・・・・・・餞別じゃ」

「甘いな。だが、嫌いじゃないぞ。だがな、止める相手を間違えている。
私はこれでも彼を気に入っているんだ。間違えて殺したんじゃとてもじゃないが目覚めが悪い」

渡された巻物を、しゅると口で開けて、そのまま走る走る。
巻物の中身は、ノボタケ城の見取り図。それを全て頭に入れて、
彼女のいるであろう場所への最短距離と、持っている武器を確認。

そういえば、最新の大砲を仕入れていたっけでも。
森を抜けて城へ到着。
でも、負ける気はしない。
それは悪魔だからとか関係ない。今この体は、人の体、女の体、
現に力ではこのごろ小平太に抜かされてきている。
だけれども、死と生の境目に決定的な違いはそれではない。
力じゃなくてただの心意気。私は死なないし、愛も死なないと馬鹿みたいに信じること。




さぁ、行こうか。

『子供が帰った 後からは
まるい大きな お月さま
小鳥が夢を 見るころは
空にはきらきら 金の星』













2009・12・20